diary

-母になるということ-「産後鬱」と診断されて。

妊娠が分かったとき、嬉しさと半面

『もうあとには戻れないんだ』そう思ったのも確かで。

いきなりスタートした出産へのカウントダウンに、なんの覚悟も持てずにいた。

はじめて胎動を確認できたとき、ようやく妊婦としての実感がわいて

「あぁ、わたしはこれから、この子に親にしてもらうんだ」そう思った。

2ヶ月間続いたつわりが終わると、妊娠糖尿病が発覚。

辛い食事制限と、生まれてはじめての入院生活を経験した。

決してしあわせなことばかりではない妊娠生活だったけど、息子に会えた瞬間はしあわせでいっぱいだった。

全ての痛みから解放され、やっとゆっくり休めると思っていたのに、産後は想像とまるで違う入院生活が待っていた。

翌日から母子同室がはじまり

まだ母乳なんて出もしない乳首を息子にくわえさせ、泣きだせば手探りにあやした。

なにひとつ回復していない身体を奮い立たせて、深夜も3時間おきに授乳室へ通った。

おむつをかえ、乳をやり、足りない分のミルクを補い、寝かしつける。

自分のシャワーや食事、トイレはそのすきを見て急いで済ませた。

乳首は切れ、くわえられるたびに激痛が走り、会陰切開の傷は何をしていても痛む。

3日間の陣痛に耐えた身体は、どこもかしこも凝り固まっている。

そんなボロボロの身体に鞭を打つような入院生活に、正直とても戸惑った。

自由に眠ることを奪われ、同じことを繰り返す日々。

いつしか朝がくるたび、指折り退院日を数えるようになった。

“生まれた瞬間から、新しい命ははじまっている”

そんな当たり前のことを頭では理解していても、わたしの心は簡単に切り替えてはくれなかった。

退院後は、家族3人でのしあわせな生活が待ってる…そう思っていた。

現実は、抗うことのできないホルモンバランスの変化と、戸惑いだらけの子育ての日々だった。

いちばん辛かったのは、ホルモンの影響でなにもかも突き刺さるように届くようになってしまった、大好きな旦那さんの声。

なんてことない言動はすべて、わたしの涙腺を緩ませた。

子供を産んだことは、一瞬だって後悔していない。

なのに息子の寝顔を見ているだけで、涙が出るのはなぜだろう。

旦那さんと二人きりだった日々を思い返しては、胸が切なくなるのはなぜだろう。

シャワーを浴びながらひとり、何度もむせび泣いた。

そのうち夕方になると、夜を迎えるのが怖くなった。

静まり返った部屋で、息子と二人きり。

息子の泣き声に敏感になり、いつしかうまく眠れなくなった。

泣いてる理由が分からなくて、思わず投げ出してしまう夜もあった。

出産を機に、一瞬で激変してしまった生活。

疲れを取る間もなくはじまった過酷な生活に、徐々に心は蝕まれていった。

生後2週間がすぎたころ、新生児訪問でマタニティブルーズのチェックが入った。

高ポイントを叩き出し、その後も保健師さんの訪問や連絡が続くようになった。

それでもどんどんポイントは高くなり、いよいよ産後鬱と診断。

産科の婦長さんとの面談が設けられ、精神科の受診を進められた。

4月、退院後から手伝いに来てくれていた両親と一緒に、実家へ帰ることになった。

そんなときでさえ、自分の子を旦那さんと”二人”で育てることができなかった自分に、嫌気がさしていた。

実家に息子を連れて帰ってからも、毎日が苦痛だった。

うまく寝かしつけられないと、心配して部屋に様子を見に来る両親にストレスを感じ

両親の腕の中で眠る息子の姿を見ては、母親として劣等感を感じるようになった。

1週間がたったころ、たまらず旦那さんへ電話をかけ、泣きながら「早く淡路島に帰りたい…」

そうつぶやいたことがあった。すると

「なんのために帰ったんや。”できるようになるため”に帰ったんとちゃうで?自分が良くなるために帰ってるんやで?いまは自分のことだけ考えて、ちゃんと家族に甘えられるようにならんと…」

旦那さんからそう言われてはじめて、自分がなぜ産後鬱になってしまったのかをようやく理解することができた。

そもそも、”旦那さんと二人で”育てる必要なんてないんだ。”みんなで”育てればいい。

そう思えた途端、心は少し軽くなり、両親と交代で息子を見ることに抵抗はなくなり、積極的に自分の時間を持つようになった。もちろん、罪悪感も感じない。

おかげで昔から大が付くほど真面目で完璧主義、なんでも効率的に動かないと気が済まなかったわたしの性格が子育てには「大敵」であることに気付けた。

そして、そういう人ほど産後鬱になりやすいということも。

子育ては思い通りにいかなくて当たり前だし、それを寛容に受け止められるようにならなければいけない。

そんなことを息子が教えてくれたように感じる。

いまは自分の時間を大切にすることで、息子と過ごす時間をより愛おしく思えるようになったし、息子のおかげで笑顔の絶えない家族と過ごす時間がとても心地良い。

もうすぐ息子は生後2ヶ月を迎える。

新生児の頃は、あれだけ早く大きくなって欲しいと願っていたのに

いまはちょっとだけ成長の早さに寂しさを感じている。

だから、どんどん記憶からこぼれおちていく二度と戻らない瞬間を大切に留めながら

そしてもう少しだけ、家族との時間を楽しんでから…

また、淡路島に帰ろうと思う。

「紡ぎ屋」の藤本沙紀です。2017年3月に東京から淡路島へ移住し、フリーライター・制作ディレクターとして活動しています。